第18回ペンギン会議全国大会に顔を出してみた
妹が(元)水族館関係者ということもあり、第18回ペンギン会議全国大会へのお誘いを受け、聴講?してきた。一般向けの会合ということもあり、平易な内容も多い。母体となっているのは水族館・動物園などの飼育員さん達のようで、飼育方法に関する発表などが多く行われた。あたり前だが、飼育員さん達は学会形式の発表など慣れている人は少ないようで、ちょっとタイムキーピングなどで苦労していた。一方で、内容に関しては水準の差はあれど真剣なもので、興味深いものも多かった。仕事が残っていたのと、途中個人的には全く興味深くない内容 (ITベンチャー(笑)のよくある営業タイム?) になったので抜け出してしまったが、あの後もいろいろと面白い内容もあったらしい。
聞いた中では、東京大学海洋研究所の佐藤准教授による発表は、(寝坊のため半分ぐらい聞きそびれたが、それでも)バイオロギングによって明らかになった最新の研究内容の解説で、硬軟とりまぜた内容で素晴しかった。例えば、ペンギンが泳ぐ速度について、体長 (直接的には抵抗) との相関を指摘した過去の研究との比較で、より現実的なパラメータを導出するための調査や、その中で仮定として置いた「速度」のトレードオフ (早く泳ぐとエネルギー消費が激しく、遅く泳ぐと基礎代謝のロスが増える) の話をわかりやすく説明してくださった。
他にも、水面から氷上に飛び出す際のエネルギー (速度) のコントロールをいつやっているのか、水面から氷上までの距離を変えるとどのように変化するか? などといった話を、実際に南極に訪れた際の経験やトラブル (アザラシ? にペンギンに間違われて襲われそうになった、等 ^_^;) を混じえておもしろく説明してくれた。ほんと、寝坊が悔やまれる。
また、サイエンスライターの細川さんは朴訥とした雰囲気ながらも、個々の対象に対する興味と愛を感じる発表があり、様々な研究を横断的にサーベイしていることからくる様々な学説や、それに基く大胆な仮説をいくつか披露してくださった。
細川さんの話でもっとも興味深かったのは、ペンギンが潜水病にならない理由の仮説で、窒素ガスの血液からの排出速度が早いのではないか? だから、気嚢の中の窒素分圧を測れば何かわかるのではないか? という問題提起をしていた。
ペンギンに限らず、鳥類は呼吸の方式が異なるらしい (生物に疎いので知らなかった)。詳しくはお手元の生物の教科書か、無ければ Wikipedia あたりを読んでいただきたいが、脊椎動物のような袋状の肺 (勝手に命名: 交流式呼吸) ではなく、肺管と呼ばれるガス交換器官に対して前後の気嚢を伸縮させ、一方向にガスを循環させる方式 (勝手に命名: 直流式呼吸) とのこと。
普通の鳥の場合は、大気が薄い上空でも効率的に酸素を取り入れて激しい運動をするための機構になっているが、ペンギンの場合は、水中で呼吸ができない状態でも、体内での直流式呼吸の循環によってさらに気嚢に含まれる酸素を「使い切る」ことができるらしい (勝手に命名: 超伝導呼吸) 。また、肺管自体のガス交換の効率も、人間の肺胞に比べるとかなり効率の高いもの、とのこと。
肺管のガス交換速度が仮に∞だとすると、潜水病になる心配はないことになる。当然、実際には血液の循環サイクルも含めた物理的な制約があるはず。佐藤先生によるとペンギンは浮上中、フリッパーにより速度をコントロールしているらしい (寝坊して聞けず -- レジュメより)。フリッパーをたたんだ方が早いにも関わらず、フリッパーを広げてブレーキをかけているのだとすれば、浮上による減圧の制約かもしれませんね (単に楽しいからかもしれないけど)。
佐藤先生の発表の中に、ペンギンの浮上速度が3m/sに達する、という内容があったらしい (寝坊して聞けず -- レジュメより)。これは強烈な話で、圧力が0.3気圧/秒、あるいは3秒で1気圧変化することを意味する。これに対応するために、おそらく、浮上時にも気嚢を運動させて、超伝導呼吸により窒素ガスを血中から追い出している筈。細川さんご提案の肺の中にセンサーを入れる方式は、鳥類にとってリスクが大きいので (排気側の気嚢にカビが生えると大変らしい) 避けたほうが良いと思いますが、例えば、浮上時の気嚢の運動が外部からわかるようなセンサーがあれば、何か調べられないでしょうか。
交流式呼吸の非効率な酸素交換で海の表面に微々たる潜水 (素潜りのマネゴト) をする我が身を省みると、はなはだうらやましい限りです。30分近く潜ってて、というより、「その間強烈なイキオイで泳いでいて(!)」大丈夫だというのだから。僕らも、せっかく肺が二つもあるのだから、直流とはいかないまでももうちょっと何とかならんものか (左右で循環させるとか)。そういえば、人間も呼吸を我慢していると横隔膜が痙攣してしまいますが、これも肺の中で空気を掻き回してガスをかき集めるためだ、という説を聞いたことがあります (半波式呼吸とでも言いましょうか)。
ところで、トップクラスのフリーダイバーの浮上速度っておよそ何m/sなんだろう。後でビデオ探してみるかな... ちなみに僕は普段は10m潜って戻ってくるのに30秒〜50秒かけてるくらいので、だいたい0.7m/s程度みたいです。